1. パキスタン国内難民キャンプの飲料用井戸水ならびに仮設緊急給水タンクtactic tank内の系統的水質検査と水質改善は急務である。

2.難民への医薬品供与は、小児用、女性用、高齢者用医薬品に絞り込む必要がある。また難民キャンプ医療ユニットの調剤設備dispensary equipmentに機能、衛生面で不備が見られた。
我々は現地で即座に調剤設備改善策を考えた。ぜひこの難民キャンプ仕様の簡易調剤ユニット(要望があれば開示する)を検討するよう提案する。

3. 難民キャンプ内および医療ユニットテント内の衛生環境整備ならびに職員の衛生教育の必要あり。

4. 難民支援スタッフ、特に保健衛生関連業務に携わるスタッフ自身の健康チェックと衛生習慣改善の必要あり。

5. 難民キャンプで使用するエッセンシャルドラッグthe Essential Drugsのラインナップに日本製のジェネリック製品が加わる意義は大きい。LabelingとInstructionの英語表記とあわせ、至急検討を開始すべきである。

6. 日本製の栄養調整食品(固形タイプ)は半調理が可能で、成分等もイタリア製のCRICHと同等である。難民用非常食として世界食料計画WFPの品目リストに採用されるよう働きかけを検討すべきである。

7. 上記項目が実施された後も、現地の状態が科学的に外部評価され、難民生活の向上に結びつくよう継続的なモニタリングが必要である。

上記の職務を担う人材として日本の薬剤師が貢献できる可能性は高く、本格的検討を開始すべきである。その際、国際薬剤師連合FIP加盟の各国薬剤師会にも参画を呼びかけるよう提案する。

考察(なぜ我々はこの提言をまとめるに至ったか)

考察1

各難民キャンプにおいてランダム抽出により簡易水質検査を行ったが、検査結果がUNHCR緊急対応ハンドブック(日本語版pp240〜241)の基準に照らして飲料に適さない井戸が散見された。
しかも定期不定期の水質検査ならびに水質確保を担当している職員がいないようである。
細菌に汚染された飲料水が原因で伝染する危険性が大きい下痢、赤痢、A型肝炎などの発症を予防するためにも井戸等の飲料水の水質確保は最優先されるべき重要課題と結論づけた。・・・・・・・提言1
(詳細なデータは別添「アフガン難民キャンプにおける試験的水質調査報告書」参照)

考察2

難民キャンプで基本診療を受けている住民層はこども、女性、高齢者(平均寿命がアフガニスタンでは現在女性が47歳で男性が43歳)がほとんどを占めている。医薬品の量的不足は否めず、特に新しい難民が送致されてきたキャンプにおいては深刻であった。
ユニセフが現場医療スタッフに医薬品を現物供与している例も見られたが、小児用で必要なシロップ剤の供給量が不足しているなど需要と供給のミスマッチも存在する。
 したがって需要に見合ったエッセンシャルドラッグを安定供給するための対策が必要であるという提言に至った。
 また、テント内での調剤はテーブルとイスが1つだけの場所で、砂塵等が吹き込む環境の中、ピルカウンティングを行って調剤を実施しているのが現状であり、@調剤薬の汚染防止A効率的な調剤 B盗難等の防止 C医薬品の有効期限等のチェック D医薬品の品質管理 E薬剤師が得た患者情報の管理について根本的な改善策が必要であるという結論を得た。
・・・・・・・提言2

考察3

難民キャンプの医療テントは、雨水等の流れ込み防止のために床(実際は土間)を底上げして設置されてはいない。また受診者および医療スタッフ自身が手洗い等の消毒習慣がないのが現状であった。しかも消毒設備すら乏しい。
   難民キャンプにおける罹患疾病を分類すると一番多いのが感染症、特に呼吸器感染症(例えば肺炎)、次に胃腸消化器疾患(例えば下痢)という現状なので、なおさら医療ユニットの消毒設備の充実と、スタッフならびに難民の衛生観念の教育が欠かせない。
・・・・・・提言3及び4

 

考察4

医療テント内で使用されていた医薬品はIDA名(オランダ)の入ったジェネリック薬であった。唯一日本のAMDAが持ち込んだ医薬品のみが日本製品であった。しかし英語instructionを添付した製品ではなくエッセンシャルドラッグ外の製品も選ばれていた。
 日本製品の品質は良質であるにも関わらず、ジェネリック品の利用が低いのは日本の薬事制度の課題である。もし難民支援で国際供給体制に参画できれば日本の評価が高まるだけでなく、国内ジェネリック品製造企業の育成にも大きく結びつくことであろう。
・・・・提言5

考察5

栄養調整食品を日本から持参し、UNHCR、WFP現地関係者に提示したところ大きな関心が示された。現在、非常食として採用されているのがイタリア製のCRICHというクラッカー風のビスケット(100gで450kcal。タンパク質12g、炭水化物65g、脂質15g)である。
   日本製品は食味、調理の可能性などで優るとも劣らない品質を持っているので、UNHCRならびにWFPへの働きかけを行うべしとの提言に至った。・・・・・・・提言6

● 参考:日本の某メーカーの栄養調整食品は100g換算で450kcal、タンパク質10.75g、炭水化物61.25g、脂質28gである。現地パキスタンならびにアフガニスタンでは料理に油をふんだんに使うため(難民へのvegetable oil配給は1家族1週間分で5リットル)、脂質を減量した製品がリーズナブルかもしれない。

考察6

難民生活の改善と向上は、思いつきや一度限りの支援では達成できないことは明らかである。したがって継続的な支援、監視、責任者への勧告を行うことが欠かせない。
・・・・・・・提言7

結語

2002年。いわゆる医薬分業率が5割近くになり、日本の薬剤師はその存在意義が国民から問われている。厳しい批判の目は日ごとに強まってきた。
過去の実績を守ることに心を奪われ、自己防衛的な態度のみに終始するならば日本の薬剤師の将来は暗澹たるものとなるであろう。またそのような薬剤師しか持てなかった日本の薬事供給体制は先進国としては不安定かつ不適切な状態に陥ることを大いに懸念するものである。

今般、難民支援という視点からパキスタン国内に点在するアフガン難民キャンプ等を調査することにより、日本の薬剤師が貢献できると思われるさまざまな提言が視界に入ってきた。しかもそれは世界の薬剤師との共同作業という意義も併せ持つ。
 国際貢献という視点から述べてはいるが、実はここで提言した内容は日本の薬事制度にとっても大きな変革を求めるものであり、21世紀における薬剤師の新たな役割を広く国民に周知するものとなろう。

 上記提言と考察を、日本の薬剤師はもちろんのこと、広く医療関係者、行政担当者が関心を示し、建設的な議論に発展するならば、今回の先遣隊の目的は十分果たされたと思う。
さらに今回の提言をもとに何らかのアクションプログラムが成立することこそ、危険を覚悟で調査にあたったわれわれが大いに望むところである。

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