■薬剤師パキスタンを走る■ 中 2002/02/22 東奥日報 25面
井戸水は安全か? 〜調査で問題点浮き彫り
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難民キャンプの井戸水調査は、訪問の大きな目的の一つだ。薬剤師として「難民たちは安全な水を飲んでいるのだろうか?」という、素朴な疑問が忘れられないからだ。
薬剤師と水のかかわりは深い。薬を服用するには水が必要だ。これは人種に関係ない。また洗い物や入浴、うがいなど衛生的な生活を維持するためにも水は欠かせない。
しかし、汚染された水を使用し続ける限り、感染症は決して減らない。不潔な井戸水の使用が野放し状態では、いくら医薬品で病気を治療しても効果はない。こういった公衆衛生の向上を図ることも薬剤師の仕事だ。
数百人に囲まれる
今回、同行した現地で活動中のフォトジャーナリスト、久保田弘信さんは言う。「多くの難民キャンプでは、生活に必要な水が不足している。大干ばつの影響だ。きっと難民たちは多少汚れていても、限られた水源を使わなければならない状況なのだろう」と。
論より証拠。まずは水質調査キットを使ってコトカイ難民キャンプやモハメドキール難民キャンプなど、数カ所の井戸を調べてみることにした。
しかし、外国人である私たちが被らにとって命のように大切な井戸水を小さなプラスチックの容器に採取することは、「怪しげな行為」と映ってしまうようだ。「毒を入れたり、いたずらされるのでは・・・」。そんな不信感と疑いの交じった強い視線がわれわれに注がれた。
また、あるキャンプでは採取中に数百人の殺気立った難民に取り囲まれ、命からがら逃げ出したことがあった。キャンプに到着したばかりで空腹だった難民の前に、たまたま私たちが訪れたため、救援食糧を持って来たと勘違いされたらしい。
周囲の視線を気にしながらも、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員の協力でなんとか六カ所の水を採取。検査の結果、次のことが分かった。
@UNHCRの水質の目安に照らすと、飲料水には適さない井戸が散見されるA大半の井戸には、子供たちが誤って転落するのを防ぐふたがないB細菌や汚物汚染の状態を定期的に検査する仕組みが整っていない。 報道と「思い込み」で難民を理解しようとすることは非常に危険なことである。とりあえず現地に赴くことで、ようやく見えてくるものがある。この調査結果を改善することが、これからの私たちの役目となる。
医薬品使用減少にも
ペシャワルとクエッタの薬局では興味深い話を聞くことができた。ある地元の開局薬剤師いわく、「日本からの支援は必要であり、特に病気の予防を行ってほしい」。
衛生的な水を使えるようにすることは感染症や伝染病の流行を抑え、病気の予防に結び付く。さらに、抗生物質などの医薬品使用量の減少にもつながると思う。今回の調査を通じて、「治療以上に予防が大切」ということをあらためて感じた。
「井戸を掘れて一人前の大人」という風習を持つパキスタンやアフガニスタンで、他国の人間が水質改善を促すのは容易ではない。しかし、安全な水は命の水であることを、非力ではあるが訴えていきたい。
弘前市・坂本賢